東京高等裁判所 平成11年(行ケ)15号 判決 2000年9月12日
原告
オーエム機器株式会社
代表者代表取締役
A
訴訟代理人弁理士
B
被告
日立機材株式会社
代表者代表取締役
C
訴訟代理人弁護士
吉澤敬夫
復代理人弁護士
牧野知彦
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1当事者の求めた裁判
1 原告
特許庁が平成9年審判第17378号事件について平成10年12月4日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告
主文と同旨
第2当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
原告は、発明の名称を「鋼製床パネル」とする特許発明(昭和62年1月24日に実用新案登録出願し、その後、特許に出願変更し、平成8年4月2日に特許第2507193号として設定登録を受けた。以下「本件発明」という。)の特許権者である。
被告は、平成9年10月17日、本件発明の特許を無効にすることについて審判を請求し、特許庁は、これを平成9年審判第17378号事件として審理した結果、平成10年12月4日、「特許第2507193号発明の特許を無効とする。審判費用は、被請求人の負担とする。」との審決をし、同月21日、その謄本を原告に送達した。
2 本件発明の特許請求の範囲
「トッププレートとボトムプレートからなり、すくなくとも上面と裏面および外周壁から構成されるフリーアクセス床板において、トッププレート1とボトムプレート2は表面処理鋼板からなり、該トッププレート1と該ボトムプレート2は縁部のほぼ全周に亘って一方を他方に被せるとともに、少なくとも一方の鋼板の一部が他方の一部を巻き込む形の噛み合わせ構造とし、外周壁の内部のほぼ全面にわたって小先端がトッププレート裏面に接触する支持柱4を多数個配置し、その接触部において少なくとも一方の鋼板が他方を巻き込む形に噛み合わせ結合された圧締結一体化構造の鋼製床パネル。」(別紙図面(1)の図1~図4参照)
3 審決の理由
審決の理由は、別紙審決書の理由の写しのとおりである。要するに、本件発明は、審決の甲第1号証(本訴の甲第3号証中の仏国特許出願公開第2317445号明細書。以下「引用例1」という。)記載の技術(以下「引用発明1」という。)及び審決の甲第2号証(本訴の甲第3号証中の米国特許第4411121号明細書。以下「引用例2」という。)記載の技術(以下「引用発明2」という。)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項に該当し特許を受けることができない、というものである。
第3原告主張の審決取消事由の要点
審決の理由中、Ⅰ(本件発明の要旨等)、Ⅱ(請求人及び被請求人の主張)、Ⅲ(本件発明の課題、作用効果)、Ⅳ(引用例1及び2の記載)は認める。Ⅴ(当審の判断)のうちの本件発明と引用発明1との対比は認める。相違点についての判断は争う。Ⅵ(結論)は争う。
審決は、引用例1記載の技術(引用発明1)を誤認したため、本件発明と引用発明1との間の相違点が審決認定の相違点1、2以外にも存在することを看過し(取消事由1)、これがあずかって、相違点1、2についての判断を誤り(取消事由2、3)、さらに、本件発明の顕著な作用効果を看過した(取消事由4)結果、引用発明1及び同2から、当業者が容易に本件発明に想到し得たとの誤った結果を導き出したものであり、上記認定判断の誤りが、審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから、審決は取消しを免れない。
1 取消事由1(相違点の看過)
本件発明はトラス構造であるのに対して、引用発明1はリブ構造であり、審決にいう「頂部が直角三角形状の角錐台」(判決注・審決書に「円錐台」とあるは「角錐台」の誤記と認める。)はリブ構造の残り部分を意味するにすぎないのであって、このリブ構造の残り部分を本件発明における支持柱と同一視することはできない。審決には、本件発明のトラス構造と引用発明1のリブ構造との相違を看過した違法がある。
(1) 引用発明1は、引用例1の第1図(別紙図面(2)の第1図参照)にみられるように、下部プレート3が、フレーム7と縦、横、斜めに設けられた波部9a、9bで強度をもたせ、「ユニオンジャック」の国旗のように八方に放射状に形成された完全なリブ構造であり、審決にいう「頂部が直角三角形状の角錐台」は同発明の構成要素となるものではない。このことは、上部プレート2と下部プレート3が接する直角三角形状の平面部(溝部10a、10b)が広くなっており、リブ構造とするために、波部9a、9bに沿って、10aでは5か所、10bでは6か所の穴15をカシメで固定する構造となっていることからも明らかである。また、引用発明1の波部9a、9bは、引用例1で「onde」(フランス語)と表されており、この「onde」は、英語でいえば「web」であり、「web」とは、通常、深さ方向の厚みを意味する語であるから、鋼板をプレス成形した中空の「web」によって補強する同発明の技術的思想は、これによっても開示されているということができる。
(2) これに対して、本件発明は、トラス構造を採用している。ここにいうトラス構造とは、2本の直線(平面)部を三角形に連結して組み立てた一種の梁構造のことであり、本件発明は、トッププレートとボトムプレートの有効な結合によって、上記のような一つの構造体として上方からの荷重に対抗させるという構造を有するものである。
このように、本件発明は、トラス構造を採用しているのに対し、引用発明1は、前記のとおり、リブ構造を採用するものであるから、両発明の力学的構造は全く異なり、両者は、審決の認定した点のほか、この点でも、相違する。審決にいう「頂部が直角三角形状の角錐台」はリブ構造の残り部分を意味するにすぎないのであり、このリブ構造の残り部分を本件発明における支持柱と同一視することはできない。
そうすると、審決には、本件発明と引用発明1との対比において、前者がトラス構造であるのに対して、後者がリブ構造であるという相違点を看過した違法があり、この違法が、審決の結論に影響を及ぼすことが明らかであるから、審決は取消しを免れない。
2 取消事由2(相違点1についての判断の誤り)
審決は、審決のいう相違点1に関し、引用発明1の「頂部が直角三角形状の角錐台」に代えて、引用発明2の小先端がトッププレート裏面に接触する支持柱を採用することは、当業者が容易に想到し得たことであると判断した。
しかし、上述のとおり、引用発明1はリブ構造であるのに対して、引用発明2は、本件発明のトッププレートに相当するシート20と、同ボトムプレートに相当する構造体30を、小先端を有する支持柱12により、その小先端部で略三角形状に結合したものであるから、トラス構造に相当するものである(別紙図面(3)の第3図、第6図参照)。そして、前述のとおり、リブ構造とトラス構造とは、別異の技術的思想に基づく全く別異の構造である。そうである以上、引用発明1に、引用発明2の小先端がトッププレート裏面に接触する支持柱を採用することが、当業者にとって容易に想到し得たことであるとはいえない。
引用発明1のリブ構造に着目せず、相違点1について推考容易とした審決の判断が誤っていることは、明らかというべきである。
3 取消事由3(相違点2についての判断の誤り)
審決は、引用発明1の角錐台を引用発明2の支持柱に代替する際に、トッププレート(シート20)と接触する支持柱の小先端の固着手段として、引用発明1の噛み合わせ結合に係る技術を採用して本件発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことであるとした。しかし、この判断は、誤っている。
引用発明1は、リブ構造のパネルであり、その組付けは、リブに沿って平坦部の複数箇所で止める方式であるのに対し、引用発明2のようにトラス構造であって両パネルが各支持柱の頂部の一点で接触する場合には、スポット溶接が本件発明の出願前最も確実でずれのないものと認められた一般的な方法であったのである。
すなわち、引用発明2には小先端接触の支持柱がみられはするものの、そこでは、部材同士の結合の態様は、それらの結合部分を完全に溶かして一体化した溶接構造であり、他方、引用発明1には一方の鋼鈑が他方を巻き込む形に噛み合わせ結合された一体化がみられはするものの、これは波部を固定するための手段にすぎないのであって、支持柱、噛み合わせ結合のそれぞれのみに着目すれば、いずれも公知ではあるものの、これらを組み合わせることについては、引用例1及び同2のいずれにも、これを示唆するものはなく、当業者にとってその動機となるものはなかったのである。
そうである以上、引用発明1の角錐台を引用発明2の支持柱に代替するに当たり、「その接触部において少なくとも一方の鋼板が他方を巻き込む形に噛み合わせ結合された圧締結一体構造」という本件発明の構成に想到することが、容易であるということはあり得ない。
引用発明2は、あくまで2枚の鋼板をスポット溶接で一体化し、支持柱(突出部12)の配列に工夫を加えて、いずれの方向に対しても均等となるようにしたものである。確かに、引用例2には、「上端に溶接、リベット止め、工業的接着、直接融合、その他公知で適切な性質をもつ手段によって固定されることができ」るとの記載はあるものの、この中に上記特定の噛み合わせ結合はみられない。このようなとき、上記事情の下で、引用発明1の結合構造を、引用発明2のトラス構造に適用することが容易であるとすることはできない。
4 取消事由4(顕著な効果の看過)
(1) 本件発明は、トラス構造と外周折り返し縁部の構造のずれのない結合を採用したものであるため、引用発明1及び同2のいずれよりも薄い鋼板で十分な強度を出すことができ、それだけ軽量化(実際の商品は1.4mm又は1.2mmを使用)できるという本件明細書記載の顕著な効果がある。床パネルの軽量化は、ビル設計上重要な要素であり、特に高層インテリジェントビルにおいては極めて重要な因子となっている。
(2) 本件発明における鋼製床パネルと引用発明1のそれとを対比した場合、その大きな差であるトラス構造とリブ構造によって大きな板厚の差が生じるし、引用発明2と対比した場合は、引用発明2は、本件発明に存する「該トッププレート1と該ボトムプレート2は縁部のほぼ全周に亘って一方を他方に被せるとともに、少なくとも一方の鋼板の一部が他方の一部を巻き込む形の噛み合わせ構造」になっていないために、少なくとも本件発明以上の板厚を必要とし、いずれも板厚を大にしなければ本件構成の床板より強度的に劣ることになるのである。
鋼製床パネルにおける板厚の相違を設計的事項といい得るのは、全く同じ設計思想や構成の鋼製床パネルにおいて、要求される強度や全体の寸法などから板厚を選択する場合であって、設計思想や構成の異なるものの間の相違を単なる設計的事項として片付けることはできない。
(3) 審決は、このような本件発明の顕著な効果を看過しているのであって、違法というべきである。
第4被告の反論の要点
審決の認定判断はいずれも正当であって、審決を取り消すべき理由はない。
1 取消事由1(相違点の看過)について
(1) 引用発明1において「リブ」に相当すると原告が主張する波部9a、9bは、補強されるべき板状部分としての上部プレート2と全く接触しておらず、上部プレート2を直接補強する構造とはなっていない。引用発明1でも、上部プレート2の補強は、本件発明の支持柱に相当する溝部10a、10bが上部プレート2と接触することにより実現されているのである。この意味で、引用発明1の波部9a、9bは、補強材たる「リブ」とはいえず、したがって、これらの存在を根拠に同発明の構造を「リブ構造」と呼ぶこともできない。原告の主張は明らかに誤っている。
原告の主張は、引用発明1の支持台による補強構造をあえて無視し、支持台を作った結果、底部に残っている、上部プレートに接触しない部分の存在を、ことさら「リブ」であると主張しているにすぎず、争点のすり替えである。
(2) 本件発明の支持柱の構成は、「外周壁の内部のほぼ全面にわたって小先端がトッププレート裏面に接触する支持柱4を多数個配置し」とされているだけであり、トラス構造に限るとかリブ構造は排除されるとかを含め、その形状や個数等について、特定のものに限るとの限定は一切存在しない。
2 取消事由2(相違点1についての判断の誤り)
引用発明1及び同2は、いずれも、2枚の鋼板の一方にプレス加工によって凹凸をつけ、その凸部(審決の認定による支持台)を他方の平板状の鋼板に接触させて強度を保つ構成である点で、同一の技術的思想に基づくものであって、それぞれの差異は、審決の認定するとおり、一方の鋼板の凹凸部分(支持台)の形状と個数と、2枚の鋼板の締結方法(噛み合わせ結合)の点にあるにすぎない。
引用発明1と同2の構造が全く異なるとする原告の主張は、審決における争点を、根拠なく全く別の議論にすり替えようとするものであって、許されない。
3 取消事由3(相違点2についての判断の誤り)について
(1) 原告は、引用発明1は、リブ構造のパネルであり、その組付けは、リブに沿って平坦部の複数箇所で止める方式であるのに対し、引用発明2のようにトラス構造であって両パネルが各支持柱の頂部の一点で接触する場合には、スポット溶接が本件発明の出願前最も確実でずれのないものと認められた一般的な方法であったのであるから、「その接触部において少なくとも一方の鋼板が他方を巻き込む形に噛み合わせ結合された圧締結一体構造」という本件発明の構成に容易に想到し得たものではない旨主張する。
しかし、引用例2には、2枚の鋼板を一体化することを、スポット溶接だけでなく、「その他公知で適切な性質をもつ手段」によりなすことも明記されているから、原告の主張は、失当である。
結局、引用発明1及び同2は、全く同じ技術分野に属する床パネルに関する技術であり、2枚の鋼板の一方をプレス加工によって凹凸をつけ、その凸部(支持台)を他方の鋼板に接触させ、該接触部において結合させて一体化する構成である点で全く同一であり、その差異は、結合手段における差異にすぎない。全く同一の技術分野における同一の課題において、複数の手段が公知である場合には、当業者が公知手段のうちの適宜の手段を選択できることは当然であって、引用発明2の手段と、引用発明1の結合手段を相互に入れ替えて採用したことに、何らの困難性も認められない。
(2) 結局のところ、本件発明は、引用発明2の公知の構成の締結手段を、他の特定の締結手段に変えたものにすぎない。ところが、本件発明が採用したのと全く同一の締結手段が、全く同じ技術分野における引用発明1に開示されているのであるから、上記締結手段を引用発明2の公知の構成に採用することは、当業者が適宜選択できることであり、その選択に何らの困難性もないものである。
4 取消事由4(顕著な効果の看過)について
(1) 原告は、引用発明1では、リブ構造であるため板厚約2mm程度を必要とするのに対し、本件発明ではそれより少ない板厚で済むかのような主張をしているが、全く根拠がない。しかも、床板における板厚は、現場において要求される強度や全体の寸法などから選択される設計事項にすぎない。
(2) 従来の鋼製の床パネルでも、軽量化が既に達成されていたことは、本件明細書の記載(甲第2号証2頁3欄14行~20行)から明らかである。また、引用発明2の構成においても、本件発明と同様の軽量化や強度が十分に得られるのであるから、本件発明が、引用発明に比べて薄い鋼板で十分な強度を出し、軽量化することができるとする原告の主張は、失当というほかない。
第5当裁判所の判断
1 取消事由1(相違点の看過)について
原告は、本件発明はトラス構造であるのに対して、引用発明1はリブ構造であり、審決にいう「頂部が直角三角形状の角錐台」はリブ構造の残り部分を意味するにすぎないのであり、このリブ構造の残り部分を本件発明における支持柱と同一視することはできないのであって、審決には、本件発明のトラス構造と引用発明1のリブ構造との相違を看過した違法がある旨主張する。
(1) 本件発明の特許請求の範囲中には、「外周壁の内部のほぼ全面にわたって小先端がトッププレート裏面に接触する支持柱4を多数個配置し、その接触部において少なくとも一方の鋼板が他方を巻き込む形に噛み合わせ結合された」と記載されているから、支持柱は、その小先端がトッププレートの裏面に接触し、その接触部において少なくとも一方の鋼板が他方を巻き込む形に噛み合わせ結合されるという構成が採用されていることは、明らかである。しかし、ここには、それ以上に支持柱の構成を限定する記載は存在しない。
本件明細書(甲第2号証)をみると、発明の詳細な説明中には、「支持柱4は鋼製床パネルの内部強度を高めるためにパネル上の荷重に耐えるトッププレート1とボトムプレート2間にプレス成形して設けられた支持柱構造の部分である。支持柱4は外周壁3内部のほぼ全面に配置され、多数個設ける。この場合も支持柱4の小先端がボトムプレート裏面(判決注・「ボトムプレート裏面」とあるは「トッププレート裏面」の誤記と認める。)に接触し、その接触部において少なくとも一方の鋼板が他方を巻き込む形に噛み合わせて溶接手段を用いることなく圧締結により固定される。」(2頁4欄14行~21行)、「このような構造の鋼製床パネルは、トッププレート1とボトムプレート2間の一体化が圧締結によるものであるから、鋼製床パネル全体に溶接焼け部分や金属露出部分等の腐蝕を受ける露出部が無く、表面処理鋼板の耐蝕性が充分に保たれる。外周壁内部へ設けられた支持柱4とそれによって形成されたトラス構造や中空構造は鋼板性の床パネル内部を軽量かつ補強された、耐荷重構造としている。」(同欄23行~30行)という記載があり、同記載によれば、本件発明は、支持柱を、その小先端においてトッププレートの裏面と接触させることによって、トッププレートとボトムプレートを結合させて一つの構造体とし、上方からの荷重に対抗させるという耐荷重構造を「トラス構造」と称していることが認められる。
(2) 一方、甲第3号証(審判請求書及び添付書類)中の仏国特許出願公開第2317445号明細書(引用例1)によれば、「図1と図2を参照すると、本発明によるパネル1は平たい上部プレート2と、この平坦プレートを使ってプレス加工により形成された容器(下部プレート)またはケーソン3とで構成され・・・プレス加工による容器(下部プレート)3の・・・底面基材6は三つの部分に分ける。・・・第三部分は該フレーム7と上記円錐台8との区間に当たり、この部分では波9を持たせて溝部10の位置を規定し、溝部底面は略フランジ4のレベルに保持し、該起伏波9の頂部は略フレーム7のレベルを保たせる。」(訳文3頁6行~16行)、「溝部10の底部で加工された多数の穴15と、さね部分13の折り曲げた部分の先端にそれぞれ設けられた穴16において、パネル1の上部プレート2と容器(下部プレート)3はカシメにより固定されている。」(訳文4頁5行~7行)との記載があることが認められ、その図面第1、2図をみると、下部プレート3に形成された溝部10の底面(上下逆にみれば「角錐台の頂部」となる。以下「角錐台10の頂部」といい変えることとする。)は、直角三角形状をしており、その高さがフランジ4とほぼ同じ高さとなっており、頂部で多数の穴15において、上部プレート2と下部プレート3とが固定されていることが示されていることが認められる(別紙図面(2)の第1、2図参照)。
上記記載によれば、引用発明1において、下部プレート3からプレス加工によって形成された角錐台10の頂部は、直角三角形状をしており、その高さがフランジ4とほぼ同じ高さのものとなっており、頂部で加工された多数の穴15において、上部プレート2と下部プレート3とがカシメによって固定され、角錐台の頂部において上部プレート2を受けているという構成となっているものであるから、角錐台10は、その構成からして、鋼製床パネルの内部強度を高めるためにパネル上の荷重に耐える上部プレート2と下部プレート3間にプレス成形して設けられた支持柱の役割を果たしていることが明らかである。
したがって、引用発明1の「頂部が直角三角形状の角錐台」が、その頂部において上部プレートと接触することによって形成される耐荷重構造は、本件発明にいう「トラス構造」と同じであると認められ、本件発明の「鋼製床パネルの内部強度を高めるためにパネル上の荷重に耐えるトッププレート1とボトムプレート2間にプレス成形して設けられた支持柱構造」(本件明細書2頁4欄14行~17行)に相当するものと認められる。
(3) 原告は、引用発明1はリブ構造であり、審決にいう「頂部が直角三角形状の角錐台」はリブ構造の残り部分を意味するにすぎないというが、仮に、引用発明1が「ユニオンジャック」の国旗のように八方に放射状に形成された波部9a、9bの構成になっている部分が、耐荷重構造上、何らかの作用を果たしているとしても、上記認定のとおり、「頂部が直角三角形状の角錐台」もまた、本件発明と同じくトラス構造の耐荷重構造を具備しているのであるから、「頂部が直角三角形状の角錐台」はリブ構造の残り部分にすぎないものということはできない。
原告の主張は、引用発明1における角錐台の有する耐荷重構造を無視し、角錐台の間に形成される波部をリブ構造と称し、争点をすり替えた議論をしているものであり、失当というほかない。
2 取消事由2(相違点1についての判断の誤り)
原告は、引用発明1がリブ構造であり、引用発明2がトラス構造であって、両者は別異の技術的思想に基づく全く別異の構造であるとの前提の下に、引用発明1の角錐台に代えて、引用発明2の小先端がトッププレート裏面に接触する支持柱を採用することは、当業者にとって容易に想到し得たこととはいえない旨主張する。
しかしながら、引用発明1がトラス構造を具備することは、前記認定のとおりであるから、原告の上記主張は、前提を誤っているものである。
念のため、引用発明1と同2の組合せの容易推考性について検討することにする。
(1) 甲第3号証(審判請求書及び添付書類)中の米国特許第4411121号明細書(引用例2)には、「シート20と構造体30である2枚の鋼板によって、上面、裏面および外周壁及び突出部12を構成し、該シート20は、構造体30の舌片28と突出部12の最上面13と接触しており、その接触面は溶接、リベット止め、工業的接着、直接融合、その他公知の手段によって固着された鋼板床パネル」(審決書11頁13行~19行参照)との記載があることが認められ、このことは原告も認めるところである。また、同引用例の第3図及び第6図(別紙図面(3)の第3図及び第6図参照)には、構造体30には、その周囲に外周壁26が、その内側のほぼ全域に突出部12(高さは外周壁26とほぼ同じ)がそれぞれ形成され、突出部12の先端は細くなっていて、シート20と接触している図が示されていることが認められる。
上記記載によれば、引用例2には、鋼製床パネルの内部強度を高めるためにパネル上の荷重に耐える構造体30とシート20間に、先端の細くなっている支持柱を設け、この支持柱を、外周壁の内部のほぼ全面にわたって多数個配置するという技術(引用発明2)が記載されているものと認められる。なお、支持柱の頂部においてシート20と接触することによって形成される耐荷重構造が、本件発明にいう「トラス構造」であることは、原告自身の認めるところでもある。
(2) 引用発明1及び同2は、いずれも鋼板床パネルであって、引用発明1の頂部が直角三角形状をした角錐台及び引用発明2の支持柱は、鋼製床パネルの内部強度を高めるためにパネル上の荷重に耐える上部プレート(前者にあっては上部プレート2、後者にあってはシート20)と下部プレート(前者にあっては下部プレート3、後者にあっては構造体30)間に設けられているものである点で同じであり、その形状及び配置数が、前者では、頂部が直角三角形状の角錐台で、8個配置されているのに対し、後者では、先端の細くなった支持柱が、多数個配置されているという点で異なるものである。
そうすると、引用発明1の「頂部が直角三角形状の角錐台」に代えるに、引用発明2の支持柱をもってし、これを多数個配置するということは、同一技術の中で単に形状及び配置数を変更するにすぎないといい得る範囲の事項であるから、引用例1及び同2に接した当業者にとって、容易に想到し得たものであることが明らかである。
3 取消事由3(相違点2についての判断の誤り)について
(1) 引用発明1の「頂部が直角三角形状の角錐台」に代えて、引用発明2の支持柱を採用した場合に、トッププレートと接触する支持柱の小先端の固着手段として、引用発明1に記載されている噛み合わせ結合の構成を適用して、本件発明の構成とすることは、当業者のみならず一般通常人を基準としてみても極めて容易に想到し得たものというべきである。
しかも、原告も認めるとおり、引用例2には、「上端に溶接、リベット止め、工業的接着、直接融合、その他公知で適切な性質をもつ手段によって固定されることができ」との記載があるのであり、このことからしても、当業者が、引用発明2に、引用発明1の噛み合わせ結合の構成を採用してみようとすることはごく自然なことというべきである。
(2) 原告は、引用発明1は、リブ構造のパネルであり、その組付けは、リブに沿って平坦部の複数箇所で止める方式であるのに対し、引用発明2のようにトラス構造であって両パネルが各支持柱の頂部の一点で接触する場合には、スポット溶接が本件発明の出願前最も確実でずれのないものと認められた一般的な方法であったとし、そうである以上、引用発明1の角錐台を引用発明2の支持柱に代替するに当たり、「その接触部において少なくとも一方の鋼板が他方を巻き込む形に噛み合わせ結合された圧締結一体構造」という本件発明の構成に想到することが、容易であるということはあり得ない旨主張する。
しかしながら、引用発明1がトラス構造を具備することは、前記認定のとおりであるから、原告の上記主張は、前提を誤っているものである。
しかも、相違点2についての想到困難性を検討するに当たってなすべきは、引用発明1の構成と同2の構成に接した当業者が、これらを契機として相違点2の「支持柱の小先端の接触部において少なくとも一方の鋼板が他方を巻き込む形に噛み合わせ結合」するという構成に想到し得たかどうかであり、この観点からみたとき、引用発明2のように支持柱が頂部の一点でトッププレートと接触する際の固定方法として、スポット溶接以外のものも考えられることは、前述のとおり、ほかならぬ引用例2自体に記載されているところであり、この記載を前提にしてなお、これを困難にすべき事情は、本件全証拠によっても認めることができない。
原告の主張は、失当というほかない。
その余の原告の主張も採用の限りでない。
(3) なお、付言するに、本件発明の特許性を判断するに当たっては、まず、本件発明を、引用発明1と対比する代りに、引用発明2と対比することにすれば、支持柱とトッププレート(シート20)の接合の仕方が相違するのみで他は同一であることが容易に理解でき、また、この相違点について、引用発明1の噛み合わせ結合の構成を採用することが容易であることは前述のとおりであるから、これにより、判断をより容易になし得ることが明らかである。
4 取消事由4(顕著な作用効果の看過)について
原告が特許性の根拠として主張する作用効果は、引用発明1及び同2の双方又は片方に既に開示されている作用効果であり、引用発明1と引用発明2とを組み合わせて本件発明の構成をとった場合の自明の効果というべきものであって、当業者が容易に予測し得ないような格別の効果でないことは明らかである。
原告の主張は、採用の限りでない。
5 結論
以上によれば、原告主張の審決取消事由は、いずれも理由がなく、その他、審決の認定判断にはこれを取り消すべき瑕疵が見当たらない。よって、原告の請求を棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を各適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 山下和明 裁判官 宍戸充 裁判官 阿部正幸)
<以下省略>